~天皇陛下の車両~
天皇陛下がご利用される「お召し列車」の車両は、御料車と呼ばれます。内部は、御座所、御休憩室、御化粧室、御厠、随員の控える次室で構成され、御座所にはテレビが備えつけられているといいます。
~お召し列車と御料車~
この御料車は、列車運行時のみ、車外の窓下に菊の紋章が掲げられます。また、御料車の前後には2両ずつ、供奉車という車両が連結されます。
供奉車には、警護などの主要随員が25人乗車可能な、330号供奉車と、他の随員が46人乗車可能な340号供奉車、電源供給用の460号供奉車、鉄道関係者が28人乗車可能な461号供奉車があります。ちなみに、供奉車にはこのように様々な号数がありますが、皇居に番地がないのと同様、御料車にも番号がないのです。
牽引にはC51形蒸気機関車239号機、EF58形61号機などの機関車が使用されていましたが、巡幸先の区間によっては電化されていなかったり電流の方式が違うため、そのつど区間内から御料車牽引用の機関車が用意されていました。
~明治天皇の走る宮殿~
現用御料車の内部は、当然、一般人が目にすることはできません。しかし、東京・神田の交通博物館には、1877(明治10)年神戸工場製の初代1号御料車と、1891(明治24)年ドイツ製の初代の2号御料車、そして8号御料車女官室が展示されています。
初代1号御料車は、京都~神戸間の開業時に明治天皇が乗車されたものです。2号御料車は当初、貴賓車両でしたが、1902(明治35)年の九州での陸軍大演習を明治天皇が巡幸されるにあたり、御料車に改造されました。
いずれもガラスケース内展示で、同博物館の他の展示車両のように近づいて触ることはできません。1号御料車の内部は、一端に玉座室、次いで御化粧室、侍従室、という配置で、内壁と玉座ほかの調度類は、すべて金色と銀色の中間のような光沢ある布張りで、さながら宮殿の一室のようです。
~御料車以外の貴賓車両~
天皇陛下以外の皇族がご利用される列車は、御乗用列車と呼ばれ、現在では251系特急電車などが使われています。また、貴賓列車用の車両として長らく活躍したのが、白色のクロ157-1形車両で、御乗用列車として44回、外国貴賓用列車として6回使用されたほか、伊豆や那須などあまり東京から遠くない地域への旅行用に使われていました。
1976年にもとの車両である157系が廃車された後もこの車両は残り、田町電市区で、今も出番を待っています。また、新幹線「ひかり」「のぞみ」などにも、防弾ガラスを使用した貴賓車両があります。外見上はほかの車両と区別がつかないかないといわれていますが。
~皇室専用ホームとまぼろしの皇族専用口~
皇室専用ホームを持つ駅として知られるのが、山手線・原宿駅です。この「宮廷ホーム」は、埼京線から分岐して新宿寄りの位置にあり、普段は金網に覆われて閉鎖され、一般人は立ち入りできません。
そもそもは、明治神宮の造園工事の際に使われた引き込み線を流用して、病弱であった大正天皇がホームからじかに車に移動できるようにと造られたものだといいます。
皇族専用通用口跡のある駅としてはJR東京駅などがありますが、とくに印象深いのは、戦時中の1940(昭和15)年7月に落成し、残念ながら2003年に取り壊されました。JR川越線の武蔵高萩駅です。近隣にあった豊岡航空士官学校や、高萩飛行場での軍の大演習に、昭和天皇や皇族が巡幸される際に利用されていたといいます。格調高い豪華な駅舎や貴賓室など、その目的のために建てられたような駅でした。
戦後、飛行場は東京電力の変電所となり、御影石の円柱を持つ皇室専用通用口は、とり壊し直前には自転車置き場になっていたといいます。
皇室という切り口で鉄道を見ても、日本の歴史がほの見えるようで興味深いです。